ヒトや動物、さらに一般的に言えば生物が有する知性に興味があり、生物が予測困難で複雑な環境においてなぜ、どのようにうまく振る舞えるのかを明らかにしたいと考えています。我々を含めた動物は、脳神経系という複雑系をもち、身体、環境、それらが相互作用して、適応的な振る舞いを創出しているのだと考えられます。また、時間的な観点では、神経のダイナミクスから、学習、進化といった様々なスケールがあります。研究の一つのゴールは、そのような観点から生命現象に関する理論を構築することです。そのために数理モデルや定量データ、操作実験など様々なアプローチを用い、対象はアリだったり、ヒトだったり、コンピュータ上のモデルだったりします。さらに、個体が集まった群れや社会といった複雑系が示す性質や、そして様々な生物種が相互作用している生態系も研究対象にしています。最近では、ヒトの文化にも焦点を当て研究に取り組んでいます。

動物の動き・移動のパターン

動物が環境の中を自由に動くとき、どのような移動パターンが生成されるかを解析しています。面白いことに、昆虫から魚、鳥、ヒト(狩猟民族)、さらにはT細胞までが、ランダムウォークの1種である Lévy walk と言われる特殊な移動パターンが共通して観察されることが報告されています。生態学的な要素を導入することで、そのパターンの適応的な観点を数理モデルとコンピュータシミュレーションで解析し、検証しました(Abe and Shimada, 2015; Mizumoto, Abe, Dobata, 2017)。また、実証研究では、そのパターンが自発的なパターンであることを報告しました(Nagaya et al., 2017)。ちなみにこの HP の上部の図は、アリ1個体を1週間撮影し、画像解析でトラッキングしたデータを可視化したものです。

生物システムにおける臨界現象

脳から動物集団、社会まで、秩序と無秩序の境目にシステムが調整されていることで、様々な機能をもつという臨界仮説が提案されています。我々は、脳のシステムにおける臨界現象から行動レベルの柔軟性が現れることや(Abe 2020)、集団レベルの臨界現象について研究しています。

                         

生物の活動パターン

動物の活動パターンは数秒から数日といった様々な時間スケールでダイナミックに変化していきます。そのような活動の定量データを取得・解析しています。Fujioka et al. (2017) では働きアリの活動が、子育てをする対象に依存して大きく変化することを明らかにしました。また、働きアリのinactivityとactivityのタイミングを解析するとベキ則がみられることがわかりました(Abe et al. 2017)。

                           

ヒトの認知機能とダイナミクス

ヒトの活動データや移動データ、会話データ、脳データみられるダイナミクスを対象に、ヒトの行動と認知における法則性を明らかにしようと研究しています(Abe and Otake-Matsuura, 2021)。さらに応用研究として、認知症の初期段階を予測または認知機能低下を予防する手法の開発に取り組んでいます。

                         

集団行動の解析

昆虫からヒトといった様々な動物種で、複数の個体が集まり社会を形成します。そのような社会がいかにして生じ、維持されているのかは重要な問題です。我々は、個体間の関係性をネットワークとして解析することにより、社会のパターンや形成過程を明らかにしています(Shimoji, Abe, Tsuji, Masuda, 2014)。また、画像解析による個体識別を用いた、アリコロニーの全個体のトラッキングを行い、情報伝播がどのように効率的に行われているかを解析しています。

              

生態系

様々な生物種が相互作用し、生態系を構成しています。数理モデルと大規模データ解析によって、生態系の動態の特徴や生物種間の相互作用を捉える研究を行なっています(Fujita et al. 2023)。

非線形時系列解析

時間的に変動するような要素が、相互作用しているシステムでは、どの要素同士が影響し合ってるかを見分けることは簡単ではありません。我々は、非線形力学系と埋め込みの定理に基づき、要素間の相互作用を明らかにする手法の開発と、行動データ、社会データへの応用に取り組んでいます。